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「絽」「紗」とは?どちらが涼しい?違いや織り方、「羅」についても解説
夏の着物としてよく知られているのが、「紗」や「絽」です。また、薄物としては「羅」もあります。いずれも涼感があるアイテムという点は共通していますが、それぞれ別物です。とはいえ、これらの差異がよくわからない人も多いのではないでしょうか。そこで、この記事では、それぞれの相違点や種類、羅の特徴などについても詳しく説明します。
「絽」「紗」とは?
「紗」や「絽」と聞くと、「夏の着物」といったイメージを持つ人が多いのではないでしょうか?しかし、これらは実際には着物の名前ではなく、織物の種類を指す言葉なのです。今でいうシースルーのアイテムというとわかりやすいでしょう。透け感が最大の特色であり、夏の着物や僧侶の服装にも用いられます。
織物の名称なので、これらが用いられるのは着物だけではありません。襦袢もありますし、半襟、帯揚げなどにも活用されます。そのため、本来は「絽の衿」などと表現するのがふさわしいでしょう。
双方共に糸と糸の間にスキマがあり、布の目(布目)が開いているため通気性が高くなっています。また、どちらも「搦(から)み織り(もじり織り)」という手法で織られていますが、目を開ける方法に相違があります。なお、素材はさまざまで、正絹(絹100%)ばかりとは限らず、綿やポリエステルでつくられたものもあります。特に、ポリエステルの洗える夏物は、たくさん存在します。
夏用のアイテムであり、生地が薄いことから、絽や紗の着物は「薄物」などともいいます。絽や紗のアイテムを着用する時期は7・8月を中心に6~9月ごろとされています。
絽とは
絽は正装着にも用いられる薄物の王道・定番で、格も紗より絽のほうが上です。結婚式やお茶席など改まった場で着用するにもふさわしい生地で、正装着として扱われる黒留袖や色無地などに用いられる一方、付下げや小紋などのカジュアルな日常着にも用いられることがあります。そのほか、夏の長襦袢や衿、染帯などにも活用されます。
例えば一番暑い時期の改まった集いには、絽の訪問着に絽の袋帯を合わせると、見た目が涼し気でよいでしょう。柄は有職文様やおめでたい柄にし、結婚式なら銀や白系のアイテムをチョイスするのがベストです。
紗とは
紗は、格としては絽よりも下がり、カジュアルからセミフォーマルといったところです。夏の薄物だけではなく、薄手の羽織などにも活用されます。着用時期は7月中旬~8月上旬くらいまでと言われることもありますが、白襦袢ではなく色襦袢を活用することで透け感がなくなるため6~9月にかけて着用が可能です。
絽と紗どちらが涼しい?
絽と紗の着心地にはそれほど大きな差はないといえます。ただ、絽よりも紗のほうが織りの手法の相違からガーゼのようにより透けて見え、涼しげな印象を与えます。そのためか、真夏には、一般的に絽よりも紗がふさわしいとされています。
通常、裏地のついていないタイプを着るのは6月頃とされ、絽や紗といった薄物は7~8月に着るのが作法となっています。とはいえ、現代の夏は非常に暑さが厳しいです。それに伴い、絽は6月頃から9月頃まで着られることが多く、紗は7・8月のもっとも暑い時期に着られます。昔と現代とでは暑さに相違があり、ある程度柔軟に活用してもよいでしょう。
絽と紗の織り方の違い
絽紗ともに、搦み(からみ)織りという手法で織られています。搦み織りとは、隣り合っている経(たて)糸をからませて織る手法です。
紗を織るときは、緯(よこ)糸1本ごとに経糸2本をからませます。経糸と経糸とをよじらせるので、その分、緯糸同士が密着できずにスキマができるのが特徴です。この織りによって間隔にスキマができるため、全体に透き通っているような印象を与えます。絽よりも涼感があり、通気性の高さが特徴です。
一方、絽は紗よりも全体的な透け感は抑えられています。これは、絽が紗と平織りを組み合わせた手法だからです。経糸を交差させたあと一定間隔で平織りし、さらに経糸を交差させて格子状にします。こうすることでスキマのない部分とスキマが入る部分が生まれるのです。奇数の緯糸ごとに経糸をからめるため、その本数から三・五・七本絽などと呼ばれます。偶数にするとねじり目が崩れやすくなるため、緯糸は必ず奇数です。平織りの部分はスキマができないため、紗ほどの涼感はありません。
つまり、紗は「緯糸1本ごとに経糸をねじる手法」、絽は「経糸を1回ねじってから平織りをいれ、さらにねじる手法」です。ねじる間隔の相違によって、両者の差が出ます。
なお、さまざまな言い伝えがありますが、紗は平安時代に登場して大流行した手法、絽は時代をかなりくだった江戸時代に登場した手法です。一定間隔で目が開く紗では、和装に見られる精緻な柄をうまく染め上げられません。そこで、途中に平織りを組み込む絽の手法が生まれたと考えられています。
絽と紗のそれぞれの種類
絽にも紗にも、それぞれ種類があります。たとえば、絽には以下のようにバリエーションがあります。
- 経絽(たてろ)
- 平絽(ひらろ)
- 駒絽(こまろ)
「経絽」は、緯糸に経糸をからめるのではなく、経糸に緯糸をからめた手法です。そのため、たて方向にスキマが生まれます。
「平絽」は、撚りのかかっていない平糸で作ったものです。無撚糸をつかうことで柔らかな手触りとなり、艶やかな光沢が生まれます。
「駒絽」は、強い撚りのかかった駒糸をつかった絽で、平絽などと比べてシャキッとしていてさらりと涼しいのが大きな魅力です。駒絽の着物は、夏の着物の代表格といってよいでしょう。
このほか、絽にさまざまな文様を作り出した「紋絽」、撚り糸の一種である壁糸を活用した「壁絽」など、さまざまなバリエーションがあります。「絽縮緬(ちりめん)」は緯糸に縮緬に用いる糸を活用して作ったもので、縮緬特有のとろみとシボがあるのが特徴です。シボとは独特の風合いをもったシワを指します。
一方、紗のバリエーションは、絽ほど一般的には知られてはいません。使用する糸に差異があり、たとえば駒糸で作った「駒紗」、平糸で作った「平紗」、平織りと組み合わせて柄を作り出す「文紗」などがあります。
また、メーカーによっても呼び方が異なりますが、玉糸を活用して紬(つむぎ)の風合を持たせたものを「粋紗・翠紗(すいしゃ)」、地模様を織り出した「紋紗」なども紗の一種です。さらに「二重紗」と呼ばれる、二重組織になっていて表と裏の織りが違っており、複雑な構造で1枚になっているものもあげられます。ただしこれは厚みがあるため、暑い時期の衣服としてはあまり適していないといえるでしょう。
絽と紗は自宅で洗える?
暑い時期に着用する物には、どうしても汗がついてしまうものです。汗は放置しておくとカビやシミの原因となるため、「自宅で洗えたら」と考えるのが自然でしょう。自宅で洗えるかどうかは、素材によって異なります。
絹素材の絽や紗は通常洗うと縮んでしまうため、自宅で洗うことは困難だと言えます。しかし、ポリエステルなど洗える素材でできているタイプであれば、自宅でも洗うことが可能です。ただし最近では長襦袢などで絹素材であっても自宅で洗えるタイプもあるので、一度確認してみてください。絹は吸湿性や通気性に優れているため暑い時期には合っており、肌ざわりも滑らかで快適です。
絽と紗のコーディネート例
- ブルーの経絽の訪問着とのコーディネート
帯や小物を感触であるブルー系統の色で統一すれば、とてもクールで涼し気なコーディネートになります。部分的に白あげして小さめに古典柄もあしらうことで、クールなだけでなく柔らかでつつましい大人の雰囲気を演出できるでしょう。
- 藤色博多織の紋紗コーディネート
藤紫にぼかしの段と波風模様を織り出した博多織紋紗は、洗練されていて入れ組み合わせのバリエーションも豊富に考えられます。相性がよい柄物の博多帯を取り入れればワンポイントとしておしゃれ感がグッと増すでしょう。
- 男性のコーディネート
ポリエステルなど洗える紗の着物に絹の角帯、絽の長襦袢を合わせると、非常におしゃれで落ち着いたコーディネートになります。落ち着きがあるため、暑さが少し収まってきた9月などでも十分に活用できるでしょう。
夏物は絽と紗だけではない!羅とはどういうもの?
羅(ら)という手法もあります。紗や絽は2本の経糸が緯糸にからみあうのに対し、羅は経糸がすべて連続して交差し、そこに緯糸がまっすぐ通る手法です。機も普通の高機とは異なり編むような感覚に近く、通常の織り機ではつくれません。
また、経糸すべてがからみあう手法なので、全体に非常に透け感が強いです。ですが、しっかりと織り込まれるため、よれたりしなったりすることはありません。糸が斜めに入ってバイアス地を形成するため、ねじれにも強くなっています。
絽、紗よりも古い手法で、正倉院にも供物として奉納されているほどです。あまりに複雑な手法のため、一時期はつくられなくなりましたが、昭和になって北村武資氏によって復元されました。
※北村武資氏は羅と「経錦」の技法において重要無形文化財を保持している人物です。彼は1972年の「長沙馬王堆漢墓(ちょうさまおうたいかんぼ)写真速報展」で羅を知り、そこで見た写真だけを頼りに見事に復元しました。
羅は、日本では冠などに活用されていましたが、特殊な作りが求められるために徐々に生産数が減少しています。
絽と紗、羅の違いを理解して夏の着物の着こなしを楽しんでみましょう
紗、絽ともに、搦み織りの織物ですが、着用時の透け感が異なります。また絽のほうが格が上で、結婚式やお茶席などの改まった場に着ていくことも可能です。一方、紗はセミフォーマルからカジュアルまでさまざまなシーンにフィットするでしょう。羅は帯で見ることが多く、紬や麻の着物によく合い、いずれも涼やかな印象を与えるものです。うまく取り入れて、夏のコーディネートを楽しみましょう。