日本三大友禅をご存知でしょうか。
京友禅、加賀友禅、江戸(東京)友禅の3つがそれに数えられます。
今回はその中でも加賀友禅の魅力についてご紹介します。
目次
友禅とは
「友禅」とは布に模様を染める技法のひとつで、絹の生地に直接筆で絵を描くように色を付けていく染色技術です。
そのルーツとなった技法は、安土桃山時代から江戸時代初期の「辻が花染」と江戸時代中期の「茶屋染め」と考えられており、元禄時代に京都で生まれました。
江戸元禄時代に扇絵師として人気を博していた宮崎友禅斎が、自分の画風をデザインに取り入れ、模様染めの分野に活かしたことが発端です。
京友禅、加賀友禅、江戸友禅を合わせて日本三大友禅といいます。
加賀友禅の歴史
その名の通り、石川県金沢市(加賀)発祥の友禅着物です。加賀はもともと絹や麻の産地であり、友禅染の大切な工程でもある「水洗い」に適した河川に恵まれた地域です。
加賀友禅の歴史は、今からおよそ500年前までさかのぼります。加賀の国独特の染め技法であった無地染の「梅染」がその起源とされています。梅染とは、梅の皮や渋を使い、布地を染める無地染めです。
17世紀中頃にはいわゆる加賀御国染と呼ばれる兼房染や色絵・色絵紋の繊細な技法が確立され、そこに模様が施されるようになりました。
さらに、江戸元禄時代に扇絵師として人気を博していた宮崎友禅斎が金沢の御用紺屋棟取の「太郎田屋」に身を寄せ、斬新なデザインの模様染を次々と生み出していきました。
宮崎友禅斎は友禅糊の技術を定着させ、京友禅だけではなく、加賀友禅の発展にも非常に貢献しました。
その後、加賀百万石の武家文化のなかで培われ、現代まで多くの名工を輩出してきました。
加賀友禅の特徴
加賀友禅は、「加賀五彩」といわれる藍、黄土、草、古代紫、臙脂(えんじ)を基調としており、美しい自然を表しています。
落ち着きのある写実的な草花模様を中心とした絵画調の柄が特徴です。
また、外を濃く中心を淡く染める「外ぼかし」や「虫喰い」といった技法も使われます。
ぼかし染とは彩色等の際用いられる、濃淡(グラデーション)をつけて染める技法です。京友禅は内側から外側に向けてぼかしているのに対し、加賀友禅では、「外ぼかし」といって柄の外側から内側へ向かってぼかしていきます。「三色ぼかし」という、木の葉の一部が枯れたり、紅葉したりしている様子を三色で表現する技法もあります。
「虫喰い」とは、木の葉が虫に食われた様子を、木の葉に小さな穴を墨色の点で描くことによって表現したものです。現実感を出しつつ、柄のアクセントとして微妙な美しさを表現しています。
京友禅とは異なる特徴の一つとして、仕上げの工程で金箔や絞り、刺繍など染色以外の技法はほとんど用いません。
加賀友禅の技法
加賀友禅の制作工程は主な工程だけで9つあり、そのすべての過程で熟練の技術が求められます。 一点一点、根気と時間をかけて仕上げられる手描き友禅は、非常に高い価値を持っています。
図案作成
顧客の希望を聞きながら模様の配置や彩色のバランスを考え、スケッチにより図案を起こします。
仮仕立て
着物の形に大まかに仕立てます。全ての工程が終わった後に行うパターンもあります。
下絵
図案の上に、白生地を重ねて下から照明を当て、つゆ草の汁の“青花(あおばな)で模様を描いていきます。青花とは、水に触れると消える性質を持つ、手描き友禅を作るうえで欠かせない染料です。
糊置き(のりおき)
青花で描いた下絵の輪郭に沿って、細く糊を置いていきます。この糊が、隣り合う染料との混ざりを防ぐ防波堤のような役割をしています。糸目糊置きとも言います。
糊の原料にはいくつか種類があり、もち米やぬかを原料とする糊や樹脂糊、最近ではゴム糊などを使うこともあります。
彩色(さいしき)
加賀友禅の中心となる工程で、糸目糊置した模様の内側に色を付ける作業です。
小さな刷毛や筆を用いて、絵画を描くように表現していきます。
仕上がりの美しさがここで決まる大切な工程です。高い技術と色彩感覚が要求されます。
下蒸し(したむし)
本蒸しの前に一度蒸す工程です。
中埋め(なかうめ)
前の工程で彩色された部分を糊で伏せ、次の工程で地色を染める際に色が入りこまないようにします。ここでの糊はやわらかく、粘度があるものを使用します。
地染め
刷毛を使って着物を染める工程です。引き染とも言われます。全体にムラなく染めるには高度な技術が必要とされます。
本蒸し
蒸気の箱の中に反物を入れて蒸す工程です。
蒸すことによって、生地の染料が膨張した繊維の組織に入り、色を生地に定着させます。
生地の染料が、膨張した繊維の組織に入ることにより、染色が定着します。
水洗
今までの工程で使用した糊を洗い流します。河川の流れに反物を広げる「友禅流し」を聞いたことはありませんか。冬の金沢の風物詩として有名で、現代でも浅野川で作業を行っている染屋もあります。
脱水・乾燥
このように、熟練した技によって加賀友禅はつくられています。
京友禅と名を並べる加賀友禅は同じ友禅染でもまた違った魅力を持っています。
その違いを見比べることもまた着物の楽しみですね。