「卒業式や入学式に着用できる着物は何がふさわしいのかな?」
卒業式や入学式に最も適しているのは「訪問着」です。しかし訪問着と言われても、ルールや選び方など具体的には分かりにくいですよね。
そこで今回は、
- 卒業式や入学式に訪問着を着ていっても大丈夫?
- 着用の際に気を付けるべきポイント
- 訪問着以外の選択肢は「付け下げ」
の順に解説していきます。
初心者の方にも分かりやすく紹介していますので、ぜひご一読ください。
目次
卒業式・入学式に訪問着の着用はOK?
「訪問着」とは和服における正装の1つで、格式としては黒留袖などの第一礼装に次ぐ準礼装に位置します。
訪問着の概要
・訪問着の歴史
もともとは明治時代に洋服の「ビジティングドレス(Visiting dress)」に当たる和服として考え出されました。その後、大正時代のはじめに現在の三越百貨店が「訪問着」と命名して売り出したのが始まりとされています。
現在の訪問着の大きな特徴は、「絵羽」と言われる模様です。しかし誕生当時は、名前のごとく「お客様のお宅に訪問するのに問題のない格式を要する」という意味合いが強く込められていました。そのため当時は、小紋や大島紬なども使用されていたようです。
こうした背景から、当時は三つ紋を付けて仕立てるのが重要視されていましたが、現在では一つ紋もしくは紋の無い状態で仕立てられる事がほとんどです。
・絵羽模様
先にも紹介したとおり、最大の魅力が「絵羽」と言われる模様付けです。通常は仮絵羽の状態で模様を施していきます。
しかし絵羽模様は、
- 生地を採寸した通りに裁断し、いったん仮で縫う
- 仮で仕立てた時点で、不自然がないよう模様を付ける
- その後、再びほどいて染色する
といった流れで作られています。
染める段階で、帯の上下を含むすべての面が対象となり、縫い目に関係なくひとつなぎで描かれるのが特徴です。
卒業式や入学式に参加するなら訪問着がぴったり
- 結婚式および披露宴(親族として出席の場合は不適)
- お見合い
- 正式なお茶会
- お宮参りや七五三
- パーティ
- 学校行事
などのあらゆるシーンに対応しています。
準礼装に位置づけられているので、卒業式や入学式などの学校関係のセレモニーにおいて、訪問着はふさわしい着物です。格が求められる行事から、華やかな催しまで様々な社交シーンで着られます。また、未婚や既婚に限られないため、1着持っていると大変重宝します。
卒業式・入学式で訪問着を着用する際の注意点
続いては、学校関係で訪問着を着用する際に特に気を付けたい点をご紹介しますね。
派手な色や柄は選ばない
卒業式・入学式の主役は、あくまでも子供たちです。子供よりも目立ってしまうような、派手な柄や色を選ぶのは避けましょう。お祝いのムードを壊さないように、脇役に徹するのが重要です。
かと言って色を気にしすぎるあまりに、地味になってしまうのも避けたいですよね。そこでおすすめの色は、季節を考慮した春らしい色です。例えばピンクや若草色などのような、淡く気品が感じられる色が使われていれば、雰囲気にぴったりな華やかさを演出できます。
また柄についてもあまりにも豪華なものや、インパクトの強い大きな柄はできれば避けたいです。色と同様に季節感を演出できる桜や梅などの春らしく、小ぶりな柄がデザインされているのがおすすめですよ。
長襦袢・半衿の色は白を選ぶ
学校行事は比較的フォーマルな場ですので、長襦袢や半衿についてもある程度の品格を保つために、「白」を選択するのが基本ルールとされています。
最近は長襦袢にも、袖からちらっと見せてオシャレを楽しむようなタイプのものがありますが、卒業式などの式典には不向きです。
帯は袋帯を選ぶ
訪問着に最も適している帯は、「袋帯」です。
袋帯とは、
- 幅:約30㎝以上
- 長さ:約4m20㎝以上
の大きさを持ち、表と裏で種類の違う生地が使われている帯です。
柄の大きさや、使用する糸で格式の差があります。「二重太鼓」と呼ばれる厚みを持たせる結び方をすれば、よりお祝い事にふさわしい印象になります。
・名古屋帯について
袋帯以外にも「名古屋帯」も場合によっては使用できます。名古屋帯とは、大正時代に現在の名古屋女子大学の創始者が考案したとされる帯の種類です。
袋帯と比較すると、
- 幅:約30㎝
- 長さ:約3m60㎝程度
なので軽く締めやすい特徴があります。
帯の長さが短いため、袋帯のように二重太鼓結びはできません。したがってセミフォーマル~カジュアルなシーンが最も適しており、基本的には準礼装に不向きです。しかし金糸および銀糸で織られていれば袋帯と同等の格になるとされています。
訪問着以外で卒業式・入学式で着用できる着物の種類
続いては学校行事に参加する場合、訪問着以外に着られるその他の種類として「付け下げ」と「色無地」があります。
付け下げや色無地が好ましい
・付け下げ
太平洋戦争中に贅沢が禁止されたため、遊女や芸妓の間で仕事用に着用する和服として誕生しました。古くから存在していると勘違いしている人が多いですが、意外にも歴史は古くありません。昭和30年代に入り一般層にも広く普及し、オシャレ着用として使われるようになりました。
訪問着との最大の違いは「模様付け」です。反物のまま染められ、柄が縫い目をまたがっていません。また着た時に全ての柄が上を向き、左右の身頃や肩から袖にかけて模様が繋がっていません。
染色方法において訪問着よりも手間がかからず、割安な金額で手に入ります。一般的に訪問着と付け下げでは、約2倍ほどの金額差があるといわれています。このような誕生時の背景や金銭的な理由からも、準礼装よりも1つ下の格式に位置づけられます。
ただし、最近では多様化が進み、付け下げでもクラシックな古典柄なら準礼装として取り扱っても問題ないという考えが増えてきました。一見すると、訪問着と見分けがつかない「付け下げ訪問着」と呼ばれる新しいタイプもあるほどです。
・色無地
柄が一切入っていない白および黒以外の色のシンプルな着物です。紋が全く入っていないデザインはカジュアル着ですが、「一つ紋の色無地」は階級が上がりフォーマル使用が可能です。
色留袖は着用しても大丈夫?
もともとは振袖にある長い袖を短く切り、脇部分を縫い合わせたものをデザインにかかわらず「留袖」と呼んでいました。江戸時代後期に登場したとされ、当時は単に振袖から進化した普段着用の和服でした。
しかし明治時代に入り、文明開化が進む中で西洋のルールが取り入れられ、ブラックフォーマルに当てはまる「黒留袖」が誕生しました。そして黒以外の色を使用した留袖を「色留袖」と言います。
現代においての留袖は、普段使いはせずに、特におめでたい席などの最高の格式が求められるシチュエーションに限定されています。
想定される場面は、最高慶事である結婚式です。
- 新郎新婦の母親
- 祖母
- 近しい親族(姉妹やおば)
- 仲人を務める女性
などの主催者側の既婚女性が、ゲストに対し感謝の気持ちを表現するために身に着けます。
よって一般的に「留袖」は、学校行事には格が高すぎるという理由から適していません。
卒業式と入学式は同じ着物でも問題ない?
学校行事に参列するお母さんの多くが洋服ですが、近頃は和服で出席される方が増えてきています。
そんな時に思うのが、「卒業式と入学式で同じ着物を着ていても問題ないのかな?」という疑問です。結論から言うと、同じ着物で参加しても全く問題ありません。どうしても気になる方は、ちょっとしたアレンジをすれば違う雰囲気を出せます。
例えば、
- 髪型を変える
- 帯の種類を変える
- バッグや髪飾りなどの小物を変える
などが挙げられます。
特に帯を柄や色を変えるだけで雰囲気はガラッと変化しますので、おすすめですよ。卒業式では、別れや旅立ちを表すようなグレーや水色、スモーキーなピンクなどが似合います。一方で入学式では、喜びを表現できる明るめのピンクや藤色などがおすすめです。
ただし、あくまでも主役は子供たちですので、悪目立ちしないようにだけは気をつけてください。
子供の特別なイベントにおいて和服で出席すれば、気分も違いますし思い出にもなります。
しかし着物は基本的に高価ですので、シチュエーションごとに揃えている方は多くありませんよね。
もしもご自身でコーディネートをうまく変える自信がない場合などは、行事ごとにレンタルしたり、中古の着物から探したりするのがおすすめです。最近は、レトロなデザインからメジャーな柄まで数多くの種類のリユース品が揃っていますよ。
まとめ
今回は卒業式や入学式で着るのにふさわしい訪問着について詳しくご紹介しました。
今回ご紹介した内容をまとめると、以下のとおりです。
- 訪問着は、着物の中でも準礼装にランク付けされるので学校行事にはぴったり
- ただし子供が主役となるシチュエーションでは、目立ちすぎない色や柄を選ぶのが重要
- 長襦袢や半衿は白、帯は袋帯を選択するのが基本のルール
- 訪問着以外には、古典柄の付け下げもしくは、紋付の色無地なら問題ない
- 留袖は結婚式のような最高慶事用なので、不適
TPOに合わせたルールを理解したうえで、子供たちの門出の日をお祝いできるように着物でのオシャレを楽しんでくださいね。