着物は今や世界中で認知されている日本の伝統的な衣装であり、海外でも「kimono」として浸透しています。
そして着物にはさまざまな種類とランクがあり、大切な行事やイベントなどでは、その着用シーンや目的で使い分ける必要があります。
TPOをわきまえて選択しないと、意図せずマナー違反となってしまったり、雰囲気に合わず浮いてしまったりする可能性も否めません。特に女性の場合は、既婚か未婚かで身に着けられる着物の種類が異なるので注意が必要です。
しかし具体的な決まりなどは、なかなか分かりにくいですよね。
そこで今回は、
- 女性用のフォーマルな着物は2種類
- 礼装および略礼装の具体例
- 男性の礼装
の順にご紹介します。
それぞれの特徴や想定される着用シーンもあわせて紹介した内容です。和服に関しては独特な決まりが多く、判断が難しいですが、まずはこの記事でざっくりと理解してみましょう。
目次
女性着物のフォーマルには2種類ある
フォーマルウェア(正装)として着用する着物は、「礼装」と「略礼装」の2つに分けられます。順番に解説していきますね。
礼装
まずは「礼装」のご紹介です。儀式や式典などにおける正式な服装を指しており、和服においては「第一礼装」とも呼ばれています。
主な種類は、
- 黒留袖
- 振袖
- 打掛
- 喪服
などです。
着用が想定されるシーンは、以下のようないわゆる冠婚葬祭の行事と考えて問題ありません。
- 結婚式や披露宴(主催者側)
- お見合い、結納
- オフィシャルなパーティ
- 成人式
- 葬儀、告別式
準礼装と略礼装
第一礼装に次ぐ格式を持つ装いを「準礼装」と言います。また、準礼装よりもさらにカジュアルな格好の「略礼装」があります。
代表的な例としては、
- 訪問着
- 色留袖
- 色無地
- 小紋および江戸小紋
- 付け下げ
などの種類が挙げられます。
着ていくのに好ましい状況は、
- 結婚式や披露宴(ゲスト側)
- 七五三、お宮参り
- 卒業式、入学式
- 私的なパーティ
- お茶会や観劇鑑賞
などです。
礼装としてふさわしい着物
まずは礼装にあたる着物を4つ詳しく解説していきます。
黒留袖
既婚女性が身に着ける和服の中で、最も格式が高いのが「黒留袖」です。
もともとは振袖にある長い袖を短く切り、脇部分を縫い合わせたものをデザインにかかわらず「留袖」と呼んでいました。江戸時代後期に登場したとされ、当時は単に振袖から進化した普段着用の和服でした。
しかし明治時代に入り、文明開化が進む中で西洋のルールが取り入れられ、ブラックフォーマルに当てはまる「黒留袖」が誕生しました。そして黒留袖の着用が想定される場面は、最高慶事である結婚式です。
以下に示す主催者側の既婚女性が、ゲストに対し感謝の気持ちを表現するために身に着けます。
- 新郎新婦の母親
- 祖母
- 近しい親族(姉妹やおば)
- 仲人を務める女性
したがって招待されて出席する女性および未婚女性については、黒留袖は着ないのがルールです。
黒留袖と合わせる帯は、格式バランスを考慮し「袋帯」を使います。
袋帯とは、
- 幅:約30㎝以上
- 長さ:約4m20㎝以上
の大きさを持ち、表と裏で種類の違う生地が使われている帯です。
柄の大きさや、使用する糸で格式の差が生じます。「二重太鼓」と呼ばれる厚みを持たせる結び方をして、よりお祝い行事に相応しい雰囲気を作るのが一般的です。
金や銀などで箔がほどこされたデザインを選べば、より一層ゴージャスで上品な印象を演出できますよ。
打掛
「打掛」は、室町時代から着られるようになった女性の礼服です。
小袖と呼ばれる着物の上から打ち掛けて羽織っていたので、この呼び名が付いたと言われています。現代における主な用途は、結婚式における花嫁の衣装です。
室町時代は、引きずって歩くのを防ぐために、裾を掻い取って歩いていました。その姿から「掻取(かいどり)」とも呼ばれるようになりました。主に武家出身の女性の場合に打掛と呼び、公家出身の女性が着る際は「掻取(かいどり)」と呼んで区別していたようです。
和装の花嫁姿で最もメジャーな「白無垢」も打掛の1つで、「白打掛」と呼ばれています。昔から白無垢には角隠し(または綿帽子)を合わせます。これは魔除けの意味があり、現在もその習わしは引き継がれています。
一方で白以外の色を使った鮮やかな打掛を「色打掛」と言います。色と柄のバリエーションが豊富で、華やかな印象を与えます。特に赤の色打掛は、昔から花嫁が選ぶ王道の衣装として今でも非常に人気の高い和装です。
打掛の大きな特徴の1つが、「ふき」と言われる綿が入った厚みのある膨らみが裾部分にある点です。この「ふき」があることで、裾に厚みが生まれ、歩く際に衣装が足にまとわりつくのを防いでいます。また、ふき部分を通常よりも厚く仕立てることにより、遠近法で身長が高く見せることが可能です。
豪華で重厚な印象与える打掛は、刺繍や絞りの技術を用いて、衣装全体に絵画のような模様を付けます。黒留袖と同じように、袋帯を合わせるのがスタンダードです。
本振袖
「本振袖」とは、「大振袖」とも呼ばれる袖の長さが約115cm前後と、振袖の中でも最も袖が長いものを指します。主に20代までの未婚女性が身に着ける和装として認知されています。
振袖の中で最高ランクの格式を持つので、古くより結婚式における花嫁衣装として使われています。最近では、成人式で使用するケースも多く見られます。
本振袖が持つ最大の特徴が「絵羽」と言われる模様付けです。
絵羽模様は、
- 生地を採寸した通りに裁断し、いったん仮で縫う
- 仮で仕立てた時点で、不自然がないよう模様を付ける
- その後、再びほどいて染色する
といった流れで付けられます。
染める段階で、帯の上下を含むすべての面が対象となり、縫い目に関係なくひとつなぎで描かれるのが特徴です。
帯については、袋帯を合わせるのが一般的です。
黒喪服
葬儀や告別式において、喪主や故人の親族である女性が着用するのが「黒喪服」です。
弔事における正式な第一礼装では、地紋が一切入っていない無地のものを着ます。
その他のルールとしては、
- 必ず五つ紋を入れる
- 長襦袢と半衿、足袋は白色
- それ以外の小物は黒
などがあります。
最近では白の下着を身に着けるのを、「不幸が重なる」という考えのもとで省略するケースが多く見られます。同じ理由で、帯に関しては袋帯ではなく、名古屋帯を合わせることが多いです。
名古屋帯とは、大正時代に現在の名古屋女子大学の創始者が考案したとされる帯の種類です。袋帯と比較すると、短く軽いため締めやすい特徴があります。
帯の長さが短いことから、袋帯のように二重太鼓結びはできません。したがってセミフォーマル~カジュアルなシーンが最も適しており、基本的に礼装には不向きです。
準礼装(略礼装)としてふさわしい着物
続いて、礼装に次ぐ「準礼装(略礼装)」の具体例をご紹介しますね。
訪問着
「訪問着」とは、明治時代に洋服の「ビジティングドレス(Visiting dress)」に当たる和服として考え出された準礼装の1つです。大正時代のはじめに現在の三越百貨店が「訪問着」と命名して売り出し、一気に普及しました。
誕生当時は、名前のごとく「お客様のお宅に訪問するのに問題のない格式を要する」という意味合いが強く込められていたので、小紋や大島紬なども使用されていたようです。しかし現在では、振袖同様に絵羽模様が入っているのが最大の魅力です。
卒業式や入学式などのある程度の品格が求められる行事から、華やかな催しまで様々な社交シーンで着られます。また、未婚や既婚に限られないため、1着持っていると大変重宝します。
帯に関しては、袋帯を合わせるのが一般的です。
色留袖
色が黒以外であること以外は、黒留袖とほぼ同じ特徴を持つのが「色留袖」です。
ただし
- 色留袖は未婚女性も着られる
- 一つ紋、三つ紋のデザインは準礼装になる
- 五つ紋だと黒留袖と同等の格を持つ
といった特徴があります。
皇室では黒留袖は喪に服すという意味合いで着られないため、宮中行事における正装として使用されています。
色無地
「色無地」は、字のごとく「柄が一切入っていない白および黒以外の色のシンプルな着物」です。その見た目から、控えめでおしとやかな印象与えます。
紋が全く入っていないデザインはカジュアル着ですが、1つでも紋が入っていると階級が上がり、準礼装としてフォーマル使用が可能です。
付け下げ
「付け下げ」は、太平洋戦争中に贅沢が禁止された中で、遊女や芸妓の間で仕事用に着用する和服として誕生しました。昭和30年代に入り一般層にも広く普及し、オシャレ着用として使われるようになりました。
訪問着や振袖とは異なり、反物のまま染められ、柄が縫い目をまたがっていません。着た時に全ての柄が上を向き、繋がっていない模様付けです。
誕生時の背景や金額の面からも格式は高くありませんが、一つ紋を入れることで準礼装として見なすことができます。
小紋
「小紋」とは、比較的細かい模様が全体的に入っているオシャレ着用の和服です。洋服における、ワンピースのような位置づけです。
同じ模様が同じ方向に繰り返し入っているのが特徴です。普段使いできるデザインから形式的なイベントに対応できるものまで幅広いラインナップがあります。
中でも「紋付の江戸小紋」は準礼装として人気があります。「江戸小紋」は江戸時代の大名の正装が発祥です。大名が着ていたという歴史的背景から、小紋の中でも最高の格式を持っています。
男性の礼装着
続いては、男性用の礼装を2つご紹介しますね。
黒羽二重五つ紋付き
「黒羽二重五つ紋付き」は、男性用の着物における最高の格式を持つ正装です。略して「黒紋付き」とも呼ばれています。江戸時代までは、武家社会の略礼装でした。しかし明治時代に礼装として採用されたことから、正式に男性の第一礼装になりました。
羽織と袴をセットにして着用するのが、フォーマル用の基本です。
- 背中
- 両袖の後ろ
- 両胸元
の5か所に紋が付いています。
結婚式で新郎が着る和装としてよく知られています。男性の仲人が身に着けることもあります。
色紋付
「色紋付」は、男性の準礼装として格付けされる着物です。女性の着物で言うところの、色留袖と同格とされています。
紋を5つ入れることで、格が上がり結婚式における新郎用の正装になります。
色留袖までとはいきませんが、白やグレー、茶色、ネイビーなど、色のバリエーションが比較的豊富なのも特徴的です。組み合わせによっては、モダンでシックな和装にもなります。
まとめ
今回は、フォーマルシーンにおける礼装について詳しくご紹介しました。記事をおさらいしますと、以下の表のとおりです。
女性 | 男性 | |
第一礼装 | 黒留袖(既婚女性のみ) 打掛 本振袖(未婚女性のみ) 黒喪服 | 黒羽二重五つ紋付き(黒紋付き) |
準礼装もしくは略礼装 | 訪問着 色留袖(未婚女性のみ) 付け下げ 紋付の江戸小紋 | 色紋付 |
基本的にフォーマル用の着物の場合、帯は袋帯を選ぶようにしましょう。着用するシーンと、出席する際の自分の立場を十分に考慮したうえで、正しい着物を選んでくださいね。
代表的な着物の種類と用途についても、一覧表でおさらいしておきましょう。ただし、パーティー等の性質によっても変わってきますので、あくまで参考程度にしておいてください。