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薄物の特徴・素材・着方、着物の種類についても詳しく解説
洋服を季節に合わせて着こなすように、着物も季節に合ったものを選ぶ必要があります。しかし、いつどのような着物を着ればよいのか分からない人も多いのではないでしょうか?そこで、今回は季節ごとに着分ける3種類の着物の特徴を紹介し、特に夏の着物である薄物について詳しく解説していきます。
夏の着物「薄物」とは
「薄物」とは、裏地をつけずに、透ける素材をひとえに仕立てた着物のことを指します。
実は着物には「袷」「単衣」「薄物」の3つを季節に合わせて着分けるという基本があります。
「袷」
袷は裏地が付いているため、10月から5月までの寒い季節に着ます。
「単衣」
裏地のない単衣は少し暑くなってきた6月と暑さのピークが過ぎた9月に着る着物です。
「薄物」
一年で最も暑い時期である7月と8月は、薄くて透け感のある薄物を着るのがマナーとなっています。もちろん、暑ければ5月に単衣を着ても構いませんし、エアコンで寒ければ夏に袷を着ても問題はありません。
着物は気温に合わせて選ぶのも一つですが、季節を楽しむという意味でも基本の着分け方は覚えておくとよいでしょう。
袷・単衣・薄物、それぞれの特徴
袷と単衣、薄物はそれぞれどのような特徴があるのか確認しておきましょう。
袷(あわせ)
袷は裏地が付いている着物で、着物と聞いて思い浮かべる最も一般的な着物と言えます。2枚の生地が合わせてあるため暖かく、寒い季節に最適です。裏地には、保湿効果のある胴裏と汚れ防止の八掛があります。袖と裾に付いていてる八掛は歩くと見えることもあるため、着物に合わせた色になっていることが多いです。袷に合わせる帯は、ボリュームのある袋帯や生地にハリのあるオールシーズン用の献上博多帯を選ぶのがよいでしょう。
単衣(ひとえ)
単衣は裏地がない分、袷よりも軽くて風通しがよい着物です。日差しが強い日の外出にもぴったりです。裏地がないことから、裏に糸が渡っている織物や刺しゅうが入っている生地などは不向きです。染物は裏も染めてあるものがよいでしょう。
また、裏地がないと着物の線がはっきりしないため、着物を綺麗に見せるためには長襦袢を着る必要があります。暑い時には、薄い長襦袢や半衿で調節しましょう。単衣の場合、特に暑い時期の帯は生地が薄い名古屋帯や通気性のある単衣帯を合わせるのが涼しくておすすめです。
薄物(うすもの)
単衣と同じく裏地がなく、着物自体の生地が薄くて透け感のあるものを薄物と言います。薄物は暑い季節でも快適に過ごせるように、絹の絽(ろ)や紗(しゃ)、上布といった涼しい素材でできているのが特徴です。絽はフォーマルシーンでも着られ、紗はセミフォーマルやカジュアルシーン向きです。上布は高級な麻織物で、カジュアル向きの着物です。
薄物の場合も、やはり着物を綺麗に見せるためには長襦袢を着る必要があります。また、着物の柄や色を工夫して透けないようにすることも重要です。合わせる帯は、着物の生地と同じく絽や紗、麻などの涼しい素材でできた夏帯を選ぶのが一般的となっています。
薄物の素材「絽・紗・麻」とは
ここでは、薄物の素材である絽と紗、麻について詳しく見ていきましょう。
絽
絽は、代表的な夏の着物の素材と言えます。結婚式やお宮参りなどのフォーマルシーンでも着ることが可能な染めの着物の下生地の一種です。もじり織(からみ織)という織り方のおかげで、生地に隙間ができて通気性が良くなっています。また、透け感があるのも特徴です。平織を交ぜて織ることから繊細な柄も描け、留袖や訪問着、付け下げ、色無地、小紋などに仕立てることが多くなっています。
紗
紗は絽よりも透け感があり、本来は7月中旬から8月頃に着るのに適した織物です。紗の着物の着心地はサラリとしており、見た目にも涼しいので真夏でも気持ちよく着られるでしょう。単衣の時期に着る紗と紗の生地、または絽と紗の生地を合わせた「紗袷」という着物もあります。
紗の薄物の場合、色や柄が上品なものを選べば、ホテルでのランチや観劇などにも着ていくことが可能です。ただし、あくまでもカジュアル向きの着物のため、着ていくのはセミフォーマルまでにしておきましょう。
麻(上布・じょうふ)
麻には通気性や吸湿性に優れているという特徴があり、麻の着物は汗をかいても肌に張り付きません。さらに自宅で洗濯もできるため、麻の着物はまさに夏の普段着に最適です。上質な麻糸で織ったものを上布と言い、中には高級な麻の着物もあります。上布よりも高価ではない縮という麻の着物もありますが、こちらも着心地が良く夏でも快適に過ごせるでしょう。
しかし、どんなに高級な麻の着物でもフォーマルシーンに着ていくことはできません。レストランやデパート、美術館などのちょっとした外出におすすめです。
薄物の着方のコツ|長襦袢・帯・小物の選び方
薄物は透け感があるため着方にはちょっとしたコツがあります。上手く着こなすための長襦袢、帯、小物の選び方をご紹介します。
長襦袢の選び方
まずは、長襦袢の選び方を素材やサイズなどに注目して解説していきます。
麻の素材がおすすめ
薄物に合わせる長襦袢にも絽や紗、麻などがありますが、その中でもやはり涼しい麻のものが人気です。特に麻の入った絽の長襦袢は吸湿速乾という特徴があるため、汗をかいても快適な上に、洗濯をしても乾くのが速いというメリットがあります。
ただし、麻の長襦袢はシワになりやすく、結婚式といった長時間座っているようなフォーマルシーンで着用するのには向いていません。そのため、フォーマルシーンで絽の着物を着る場合は着物に合わせて正絹の絽の長襦袢を選ぶようにしましょう。そうすれば着姿が美しくなり、袖の振りから長襦袢が覗いた時の印象も良くなります。
二部式襦袢は避ける
薄物は透け感があるのが魅力ですが、同時にその透け感が問題になることもあります。
たとえば、室内では気にならなくても、外に出て日に当たると予想以上に透けていたなんてことはよくある話です。薄物を着る時は透けるという前提で、肌着や長襦袢の選び方に気を付ける必要があります。
特に二部式の長襦袢を選ぶのは避けましょう。二部式の長襦袢は動きやすくて着やすいといったメリットがありますが、薄物に合わせると腰の部分の切り替えが透けてはっきりと見えてしまいます。見た目が良くないことから、薄物を着る時は一部式の長襦袢を選ぶようにしましょう。
ジャストサイズを選ぶ
袷の下に着る場合は、透けることがないので、足さばきなどを考え長襦袢が短めに仕立てられていることもあります。
しかし、薄物の着物の下に短めの長襦袢を着ると、透けて足首や手首がニョキっと出ているように見えます。そうなると見た目のバランスが悪くなってしまうため、自分の体型に合ったサイズの長襦袢を選ぶことが重要です。ジャストサイズにあつらえてもらうのが一番ですが、丈が短い場合は自分で裾出しなどをすることで対応できます。
長襦袢の下に和装用のステテコを履くことをおすすめ
着物や長襦袢に居敷当をつけることで、ヒップを透けないようにすることが可能です。しかし、これでは薄物の魅力である透け感や涼しさなどが薄れてしまいます。薄物の魅力を最大限に発揮するためには、長襦袢の下に和装用のステテコを履くのがよいでしょう。ヒップから足のラインにかけての透けを防止できます。たくさんの種類が出回っており、ほとんどが自宅で洗えるのもメリットです。
絽の長襦袢には絽の半衿をつける
絽の長襦袢はフォーマルシーンでも着用できますが、その際は半衿にも注意しましょう。半衿も着用シーンに合わせる必要があり、フォーマルシーンで絽の長襦袢を着る場合は、半衿も絽のものをつけるようにします。
帯の選び方
薄物は透け感が魅力ですから、やはり帯も着物と同じく絽や紗、上布などの夏帯を選ぶとよいでしょう。紗よりも透け感がある羅もおすすめです。絽や紗の名古屋帯、絽塩瀬、紗献上博多帯などさまざまなものがあり、着物に合わせて選んでおしゃれを楽しめます。
ただし、フォーマルシーンで絽を着る際は絽や紗の袋帯を合わせるのがマナーとなっているので注意しましょう。着物の格に合わせた帯選びが重要です。
小物の選び方
色が合うならば、袷の時期の小物を薄物の時期に使うこともできます。絽や紗の帯揚げやレース素材の帯締めなど、涼しげな小物を合わせて薄物の魅力をより引き出すようにするのもおすすめです。ガラス素材などもあり、小物は比較的自由に選べるのでおしゃれを楽しみましょう。
季節やシーンに合わせて着物を楽しもう
着物は季節に合わせて袷、単衣、薄物と着分けられ、四季を楽しみながら快適にも過ごせます。特に夏の薄物には絽や紗、麻といった素材の違いがあり、着用シーンによって着分ける必要があります。最低限のマナーを守った上で、色や柄、帯や小物を工夫してそれぞれの着物を楽しみましょう。